活用事例

CC事例その2:Linux標準教科書

Linux標準教科書

Linuxはオープンソースソフトウェア(以下OSS)の世界で構築されてきたOS(オペレーティングシステム)です。OSSは、どこか特定の企業が開発しているわけでなく、有志のエンジニアや企業、非営利組織などのコラボレーションによって開発されているという特徴を持つソフトウェアです。このようにしてできたLinuxは世界中の企業等で使われています。たとえば、Linux Foundation とYeoman Technology Groupによれば大企業のサーバ、データセンタークラウドの分野では2014年のLinuxの導入率は79%にのぼります[1]。 Linuxは1991年にフィンランドのヘルシンキ大学の学生だったリーナス・トーバルズが自主的に開発を始めたOSですが、2000年頃からはIBM、HP、インテル等のプログラマも業務の一環として開発に関わるようになり、今ではサーバ系のOSとしては主要なものとして認識されています。

2015年前半にクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのチームがインタビューを行ったLPI-Japan(Linux Professional Institute Japan; 以下LPI-J)は、Linuxや、OSSのデータベース(以下OSS-DB)、HTML5(多くの端末上でソフトの変更無くして動作可能な言語)のプロフェッショナルを認定する活動を行うNPOです。また、認定試験の標準教科書も出しており、これらにCC BY-NC-NDライセンス*を採用しました。LPI-Japanの認定試験はITメディア(@IT自分戦略研究所)の調査で「取得したい資格」で8年間連続1位になっており、ITエンジニアにとっての王道資格といえるものです。今回のインタビューは、このLPI-Jが発行するLinux標準教科書他5冊のライセンスとしてCCライセンスが採用されていることについて、採用のきっかけや、採用した効果、そしてCCやオープンソースムーブメント全体に関してLPI-Jがどう考えているかを紹介していきます。

* CCライセンスのライセンス形態の一つ。このライセンスが付与されたコンテンツを使う場合は、適切なクレジットを表示して変更点を示さなければならなず(BY)、営利目的で使ってはならず(NC)、作品を改変した状態で頒布してはならない(ND)。

CCライセンス採用の着想

Linux標準教科書の執筆者の一人である宮原徹氏は、日本でCCライセンスの使用例がまだほとんどなかった2007年、既にCCライセンスを付与したソフトウェアの教科書を出版する計画を立てていました。CCライセンスは著作物の創作者が自分の生み出したものを公開しつつその使われ方をコントロールできる、という点で、GNU GPL*などの他のOSSのライセンスとの親和性が非常に高いものです。宮原氏はこのことを知っており、Linuxの標準教科書を作る際のライセンスとしてCCライセンスを採用することを、現在LPI-Jで理事長を務める成井弦氏に持ちかけました。当時の様子を振り返って宮原氏は次のように語られています。(以下敬称略。)

[1] ZDNet JAPAN 2014/12/4 進む大企業のLinux導入

宮原:「残念ながら標準教科書プロジェクトを最初に立ち上げるときにCCを採用した実例がやっぱり少なかったのですよ。まだまだ。ですので、逆に先取りしてやりましょうよって言って。(成井氏に)『これは絶対目立ちますよ』って。」

このCCライセンスの導入の提案は、成井氏が企図した無料での教科書の公開とうまくマッチしました。成井氏率いるLPI-Jとしては、自身が運営するLinuxのプロを認定する試験の受験人口を増やしたい。そこで、Linuxの基礎的な内容の教科書を無料で提供し、Linuxユーザーの分母を増やしたい。しかし、あまりにも自由な状態で使われてしまっては統制が取れない。そこで、無料での利用を可能にしつつユーザーの出来る行動の範囲を規定するCCライセンスが採用されたのです。

成井:「教科書は無料で配布するのですが、勝手に中身を一部利用されて、我々のコントロールの効かない状況になると困ります。だから、我々が正当な使われ方かどうかを判断して、許可する。そういう、一定の制限を加える必要があるところでは、様々条件設定が出来るクリエイティブコモンズは良いですね。」

Linux教科書photo

CCライセンスで提供されている教科書。現在合計6冊が発行されている。

このCCライセンスの採用により、LPI-Jの教科書の普及は急速に広まったようです。以下、具体的な効果について見ていきます。

*フリーソフトウェアやオープンソース・ソフトウェアの分野で最も使われるライセンスの一つ。商業利用や改変も含めた自由な利用が可能だが、ライセンスされたソフトウェアを改変して再配布をする場合には、改変版も自由に利用できるソフトウェアとしてリリースしなければいけないという特徴がある。

CCライセンスを付与した効果

効果その1 LPI-J自身へのメリット:フィー・オン・フリービジネスモデルの実現

CCライセンス採用の結果、LPI-Jの教科書のフリーな流通が可能になりました。それにより、「フィーオンフリー」のビジネスモデルが可能になったと成井氏は述べます。フィーオンフリーとは、ユーザーに無料のサービスを提供し、その上に有料のビジネスを構築するビジネスモデルです。LPI-Jは、教科書をほとんど無料(製本版は実費のみかかる)で提供する代わりに、認定試験を有料で提供する、オープンソースの世界で言う、フィーオンフリーのビジネスモデルを実現しているのです。

成井:「我々の試験に関連する本を無料で配布することによって、勉強した人が最終的には我々の試験を受けてくれる。たとえばPostgreSQLと呼ばれるオープンソースのデータベース管理ソフトの本を無料で配信することによって今まで中身が判らないクローズドソースのDBMSしか体験しなかった多くの技術者がPostgreSQLの知識をつけて、我々の認定試験を受けて下さる。ビジネスモデル的に言えばフィーオンフリーのビジネスモデルになっていると言えます。ただ、LPI-JapanはNPOですので、我々の認定活動を通じて日本の技術者や企業の技術力の向上を目指している団体で、売り上げや利益を追求している団体ではありません。」

現在LPIC国内受験者総数は延べ24万人(取材時点)を超え、実際のレベル認定を受けた人は延べ8万7千人(取材時点)に上ります。さらに、Linuxの標準教科書は13万ダウンロード、サーバ構築標準教科書が6万ダウンロード等と、非常に大きな数となっています。受験者が必ずLPI-Jが発行する教科書を使っているかどうかは知ることはできません。しかし、宮原氏はこうした無料の教科書が存在することによって受験を勧めやすくなった、と語ります。

宮原:「これから試験を受けようとする人に対して、こういうことから勉強したらいいよと言い易くなりました。もちろん、標準教科書で(全ての)受験者が勉強しているわけではないんですけど、試験を受けている人はだいたい、ダウンロードしてくれているはずです。ホームページでも目立つところに出ているので。」

更に宮原氏は、Linuxの教育を行う学校にも使ってもらいやすくなったと言葉を続けます。

宮原:「あとは、専門学校などの教育機関に使ってもらいやすい。学校ではやはりそれなりに受講費をもらっていて、その中から教科書なりを選ぶ必要があるので、教科書選びには慎重にならざるをえない。でも(標準教科書は)無料だから『PDFでとれますよ、ダウンロードしなさい』って先生が言えばそれで終わり。だから使い勝手がいい。」

これに加えて、教育の現場に使ってもらいやすい形態で教科書が出来たことによって、LPI-Jにとっても更なるメリットを実現しています。それはアカデミック認定校の登録制度です。
アカデミック認定校制度とは、LPI-Jが認定する教材、講師や設備で教育を行う機関をLPI-J認定校にする制度です。登録すれば試験問題の改定情報を事前に得られたり、認定校のプロモーション活動をLPI-Japanと行えたりするメリットがあります。これらの教育機関が我々が無料配布している本をベースに教材を開発する場合もあります。
以上から分かるように、CCライセンスはフリーミアムのビジネスモデルを展開するうえで、使い勝手の良いライセンスとして機能しています。

効果その2 ユーザーへのメリット:教育の底上げ

CCライセンスをつけるメリットは、コンテンツの提供者側だけでなく、試験を受けるユーザー側にも存在します。それは無料で教科書が利用できることで、ユーザーが自身の教育投資が少なる点です。

LPI-Jの活動目的の一つは、「日本の技術者、企業、教育機関、国の技術レベルの向上」です。この目的の達成のためにはエンジニアが自分の意思で学習することが必要不可欠です。しかし、日本人には教育へ投資する意識が低い、と宮原氏は感じていました。株式会社びぎねっとでの初心者のためのコミュニティ運営やセミナーの開催を通じて 10年以上教育に携わってこられた宮原氏は、教育への意識の低さを肌で感じたと語ります。

宮原:「日本人は、教育投資をしなさすぎるというのが私の中の根源的な疑問です。私は10年以上エンジニア教育に関わってきていますが、とにかく日本人はお金を出さない。」

宮原氏がCCの導入を勧めたかったのはこの事態を改善したかったためでもあるといいます。

宮原:「教育にお金を出してくれないから、頑張って標準教科書を無料にしてCCにしたかった。この教科書がスタートになって、その中でもっと詳しく習得したいことを自分で調べたり、本を買ったり、外部の勉強会に行ったりしてもらえればいいな、と考えたのです。ちょっとずつでもいいから、自分に対してお金を使うという習慣の一歩にしてほしかったのですよね。」

宮原氏の試みのおかげで、ユーザーは無料になったLPI-Jの教科書を簡単にダウンロードでき、それによってLinuxへの一歩を簡単に踏み出すことが出来るようになりました。

宮原氏は教科書を作るほかにも「びぎねっと」での活動を含め、さまざまな試みをされています。その背後には、宮原氏自身の、教育格差を是正したいという強い思いがあります。

宮原:「今後ますます教育格差が広がると思います。たとえば親の収入が多い家庭は塾に行かせたりして教育投資をしますよね。だけど収入が少なければそうはできない。すると長い目で見たときに親の収入が多い方が子供はいい教育をうけるっていう傾向が加速すると思います。ですから、なるべく教育コストを下げていろんな人が様々な教育を受けられるようにしないといけないと考えています。
たとえば、初等教育とか中等教育レベルの教材を、リタイアした先生がボランティアのような形で教える。そういう形になっていくと面白いんじゃないかなと思います。私もこのテキストを使ったセミナーや、自習会という、黙々とこの教科書の内容をやって、私がそばにいて質問を受け付ける会を開催したりしています。」

宮原氏は、セミナーや自習会を通じて、長期的に教育格差が是正される世の中を目指していると語ります。そして、CCライセンスについて、教育コンテンツ全般を無料で公開するときのライセンスとして、有効に使えるのではないか、と考えています。

成井氏と宮原氏photo

CCライセンスの有効性について語る成井氏(左)と宮原氏(右)

CCライセンス採用のねらい

ライセンス意識の醸成を目指す

採用した背景の一つに、日本人にライセンス意識を根付かせたいという宮原氏の思いがありました。宮原氏は「日本人は権利義務意識が薄い。」という実感を持っており、ライセンス意識の醸成自体が重要な課題だと考えます。その課題を達成するために、CCライセンスの採用に至ったという経緯があります。

宮原:「Linuxやオープンソースをやっていて感じたのは、日本人のライセンスに対する意識がものすごく低いことなんです。たとえばLinuxやオープンソースは無償で入手できるから、タダでうれしい。でも、それだけという感じなんですよね。それに比べると欧米って権利義務意識が結構はっきりしている。海外のカンファレンスでライセンスに関するセッションに参加した時に感じたのですが、欧米はやっぱり意識が高い。日本では、自分がメリット受けたらちゃんとメリットを返すという意識がちょっと低いと思ったんです。つまり、日本では、ライセンスってものがあるから上手く回っているという意識がすごく薄いんですよ。」

この意識を変えるためには、ライセンス意識の薄い人にライセンスの大切さに気付いてもらうことが必要です。LPI-Jの教科書をダウンロードするときには、トップページに画像でCCのBY-NC-NDライセンスを示すマークが表示されます。また、紙媒体での教科書にも、初めにCCライセンスのマークが表示がされています。このことがユーザーのライセンス意識の向上につながるのではないかと宮原氏は考えています。

宮原:「(無料の教科書でも)ライセンスというものあるんだよっていうのが、たとえばこうやってマーク入れることで知ってもらえる。CCライセンスですよ、って画像で表示してあると、「CCって何?」って思ってもらえる。そこから、「へぇライセンスってものがあるんだ」って思ってもらえるといいな、と思っています。」

教科書に使用のCCマークphoto

製本版の教科書についているCCマーク。一目でそれとわかる場所についている。

もちろん、CCライセンスを使わなくても独自のライセンスを文章で書くことは可能でした。しかし、CCライセンスを導入することでユーザーにライセンスの事をよりわかりやすく伝えられるという効果がありました。

課題

無料教科書の広まりすぎはユーザーに悪影響

宮原氏は、いくつか相性がいい側面がある一方、相性が悪い面もある、といいます。それは、非常に安価な教育コンテンツが、有料のコンテンツと競合関係になると、教育コンテンツ自体から得られる収益が減り、コンテンツ提供者の数を減らすことにつながるということです。その場合、CCライセンスでは対処できません。宮原氏の言葉ではその懸念が次のように表されます。

宮原:「たとえば出版社さんが試験にチャレンジするための教科書を出版していて、それとLPI-Jの標準教科書が競合してしまうと出版社さんたちが出す気をなくしてしまう。それでは最終的には受験者の人たちにいろいろな種類の教科書や問題集を入手する機会を逆に奪ってしまいます。」

こうした懸念に対応するためにLPI-Jではコンテンツの「棲み分け」をしているそうです。あくまでLPI-Jによって無料で提供されているのは基本的な内容のみ、あとの応用の部分では技術力をつけて収入を向上させたユーザーが有料のコンテンツを利用することで対応してもらう、という姿勢をLPI-Jはとっているわけです。

宮原氏の考えでは、コンテンツの市場自体に安価なコンテンツが与えてしまう悪影響に対処するためには、コンテンツの市場をどのようなものにしていきたいか、というプランを持つことが必要です。そのプランと、CCライセンスという道具の両方があって、初めてフィーオンフリーのビジネスモデル上でCCライセンスがうまく機能すると、宮原氏は語っています。

オープンソースとライセンスへの「哲学」

オープンソースにおける「契約」

成井氏と宮原氏はCCライセンス、オープンソースムーブメント全体に対しても考えを持っています。宮原氏はCCライセンスは私人間契約(しじんかんけいやく)のアンチテーゼとして生まれた一種の社会契約だ、と考えます。

宮原:「『オープン』という考え方自体が、一種の共同体の中での社会契約なのです。今までの企業と個人の間の私人間契約だと、片一方の契約主体が何かのサービスを『もうやらないです』って言った途端に終わりになります。しかし、そのサービスが公共財として解放されていれば、『じゃあそれ引き継ぎますよ』という人が出てくることがありうる。わかりやすい例で言うと、何かの建物がダメになったときに、『これ手放します』って言うと、利用価値があれば地元のNPOとかボランティア団体が引き継ぐ例ってありそうですよね。価値あるものだったらそうやって継承されていく。それと同じなのですよね。そうやってLinuxも連綿と引き継がれてくる中で成長してきたということがあります。」

欧米では、ソースコードは一種の共有財産とみなされている場合もあります。また、税金で作ったシステムのソースコードはオープンソースにすべしという考え方を持つ自治体もあるといいます。日本でも国土交通省国土地理院がウェブ地図サービス「地理院地図」のソースコードをGitHub上に公開する、という動きも見られます*。共有財産としての情報という思想の広がりを感じさせる展開です。

一見、企業が責任をもって作っているわけではないOSSは非常に不安定なものに見えるかもしれません。しかし、一旦サポートや契約が終了してしまえば、私企業が作ったシステムであろうと脆弱なものになってしまう傾向があります。CCやOSSの文化は一つのアンチテーゼとして機能するのかもしれません。

* INTENET Watch 2015/1/15 「国土地理院、「地理院地図」がスマホ対応、「触地図」特設サイトや西之島のGIFアニメも登場」参照。
なお、実際のソースコードは コチラから見ることができる。

OSSのルールの生態系

今後のOSS系ライセンスについて、成井氏は「どのような世界を作りたいか」という哲学を持って構築していく必要がある、と言います。

成井:「たとえば、 GNU GPLを作ったリチャード・ストールマンのフィロソフィーは、オープンソースは改変されてもずっとオープンソースでなければいけない、というものでした。彼はライセンスを作るというか、オープンソース方式で作られたソフトはずっとフリーであり続けるという世界自体を作ろうとしたんですよね。同様に、もし新たなライセンス形態を作るなら、そのライセンス形態でどのような新たな世界を作ろうかというマクロなフィロソフィーが必要だと思います。それがないとライセンスの種類が増えるだけで、一体何を目指して新たなライセンス形態を作ったのだかわからなくなってしまう。」

また、宮原氏はよりよいライセンスがつくられていくために、ライセンス間の競争のようなものが起こるといい、という考えを持っています。

成井氏photo

ライセンスの哲学について語る成井氏

宮原:「みんなが準拠するべきルールが一つあるとわかりやすいですよね。OSSの世界って百種類ぐらいルールがありますから。全体的にはGPL、BSD、最近はApacheライセンスもよく使われます。それは多分開発した人が普段使っているソフトを参考にして、ライセンスを選択しているからだと思います。あるいは派生的にこれを再利用させてもらったからこのライセンスにしようといって自然に決まる。そうすると開発する人たちがそれに準拠する形で一種のルールができてグルグル回るようになっていきますね。
そういう時に、場合によってはCC以外のものが出てきても私はいいと思います。使いやすさとかあるいはわかりやすさ、といったところでライセンス同士の競争になって行けばいいと思います。その議論の下敷きとして、こういうライセンスありますよ、という紹介はどんどんしていくべきなのかなとも思います 。」

最近CCライセンスの最新版であるCC バージョン4.0の日本語版が公開されました。この最新バージョンの策定にあたってはCCライセンスの互換性が真剣に検討され、改善案としてグローバル版として文言が統一されました*。日本語版も、日本の法律に合わせて特別に内容を変更することなく、グローバル版の文言をできるだけ正確に伝えるように努めて作成されました。今後CCが世界中のコンテンツ提供者にとって使いやすいものになるために、我々も世界観・哲学を模索しながら活動していきたいと思います。

*しかしながら著作権法は国や管轄地によって異なるため、互換性の問題が完全になくなったわけではありません。たとえば、何を「翻案」とみなし、何を「複製」とみなすかについては、ライセンス上同じ言葉をグローバルに使っているとしても、それを解釈するにあたってグローバルに統一された判断基準はなく、それぞれの国の法廷が判断を積み上げて行って基準を作っていくというアプローチをとっています。このような、国毎に異なる判例の積み重ねの生み出すズレが、CCライセンスが持つ効力を国によって異なるものにしてしまう、といった余地はまだ残っています。

協力(敬称略):成井弦(LPI-Japan  理事長)、宮原徹(株式会社びぎねっと 社長)
取材・執筆・編集:CCJP事務局 中尾悠里、長谷川世一、冨山京子
※お二人へのインタビューは2015年前半に実施されました。肩書等は当時のものです。

なお、本稿に述べられている見解は、執筆・編集者のものであり、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンやコモンスフィアの公式見解と必ずしも一致するものではありません。また、インタビューにご協力頂いた成井様、宮原様、LPI-JapanのCCライセンスについての見解やライセンス利用法は、執筆・編集担当者が示唆に富んでいると判断したことから本記事で取り上げさせて頂いたものですが、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンやコモンスフィアの公式見解と必ずしも一致するものではありません。

電通総研Bチームによる「Prototype for One」にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが採用されました

電通総研BチームがForbes Japanで発表した「Prototype for One」にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス<表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際>が採用されました。

「Prototype for One」は、誰かひとりのためにつくったものが、多くの人のためのものになり、イノベーションにつながるという考え方です。Forbes Japan誌面上では、世の中に存在する「Prototype for One」の具体例を示し、実際にこの考え方に基づいて2週間でプロトタイピングした実験結果を掲載しています。

電通総研Bチームによれば、このイノベーションへの新しいアプローチが広く浸透することで、多くの人の課題を解決し、欲求を実現する事例が増えればと考え、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用したとのこと。

クリエイティブ・コモンズのユニークな採用例の一つとして紹介させていただきました。

Forbes Japanで連載中の「電通総研Bチームのニューコンセプト採集」

http://forbesjapan.com/summary/2015-08/post_6674.html

電通総研Bチーム

http://dii.dentsu.jp/project/teamb/

CC事例その1:大崎一番太郎

はじめに

皆様のおかげでCCライセンスの知名度も増し、活用してくださる方々も増えてきました。そこでこの度クリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、今まで活用されてきたCCライセンス及びCC0※の事例を紹介する記事を書くことになりました。皆様の今後のCCライセンスの活用のご参考になればと思います。

CC0:著作者が自身の著作物の著作権を放棄するためにクリエイティブ・コモンズが作ったツール。著作権の保護期間が切れてパブリックドメインになるのを待つのではなく、自発的に著作権を放棄することができ、より多くの人々が自身の著作物を利用しやすくなります。クリエイティブ・コモンズではCC0の他に、一定の範囲内での著作物の利用を許諾するCCライセンスを作っており、クリエイティブ・コモンズ及びクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのホームページで紹介しています。

(さらに…)

法人スタンプ初!LINEクリエーターズスタンプ「アルパカさんとスギヤマくん」にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが採用されました

クラウドクレジット株式会社のLINEクリエーターズスタンプ「アルパカさんとスギヤマくん」クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 4.0 国際)が採用されました。

(さらに…)

CCライセンスが採用されています- 『オープンデザイン -参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」-』

『オープンデザイン –参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」-は、主にプロダクトデザイン分野におけるオープン化についての論考や事例を紹介する本です。

インターネットを通じたデータの共有、デジタルファブリケーション技術によってデザインの共有、改良、製作などが容易になる中、デザインという行為やデザイナーのあり方について考えています。

『オープンデザイン』の原著である『Open Design Nowは、2011年6月に書籍として出版されました。その後、201212月まで、本の内容が徐々に公開されていき、現在ではクリエイティブ・コモンズ(表示 – 非営利 – 継承 3.0 非移植)ライセンスの元で100%オープンとなっています。

日本語版では、原書を翻訳するだけではなく、日本の論考や事例紹介を加えています。この日本語版でプラスされたパートのPDFファイルは、クリエイティブ・コモンズ(表示非営利継承 3.0 非移植)ライセンスの元で公開されています。

また、この日本語版のPDFは、印刷して折り、周囲を切りそろえると、紙の本としても楽しめる仕様になっています。

日本の論考:http://opendesignnow.jp/assets/odn_jparticles.pdf

日本の事例紹介:http://opendesignnow.jp/assets/odn_jpcases.pdf

今後『オープンデザイン』がさまざまな言語に翻訳され、各地域での事例追加や独自のブック・デザインが行われたりすることで、創造の循環があると楽しいですね。

漫画業界初、『チェーザレ・ボルシアを知っていますか?』のPDF版にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが利用されました。

チェーザレガイドカバー

漫画『チェーザレ ~破壊の創造者~』の完全ガイドブック『チェーザレ・ボルシアを知っていますか?』(講談社・2013)の初版サービスとして、本書の購入者に、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示―非営利―改変禁止)付きのPDF版全ページ無償ダウンロードサービスが実施されました。

『チェーザレ ~破壊の創造者』(講談社・20052013現在)は、ルネサンスから大航海時代へ移る世界史の中でも特に激変の時代を生きた英雄であるチェーザレ・ボルシアを描いた歴史漫画です。そして、『チェーザレ・ボルシアを知っていますか?』はこの漫画の制作にあたって、企画から10年の歳月をかけてあつめた資料をベースとして、チェーザレが登場するに至る歴史や、チェーザレを取り巻く宗教・文化的背景を網羅的・ビジュアル的に紹介するガイドブックです。

なぜ、本書にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスをつけたのかについては、『チェーザレ』を通じて歴史に興味をもった方が、さらにそれを広め、また広げていくためであるとされています(http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000284.000001719.html)。『チェーザレ』という作品は、数多の先人たちの研究をもとに、作者の惣領冬実氏と監修の原基晶氏が情報を選別し、再構成して物語として紡ぎ、漫画という形で表現されたものです。このような『チェーザレ』の創造性についての考え方、すなわち、前の世代が生み出した創造物の結果を自分なりに取捨選択し、そこに独自の創造性を付加していくことで新たな表現が生み出されるという発想は、クリエイティブ・コモンズの考えと親和性の高いものです。

過去の創作的な表現をもとにして生み出された『チェザーレ・ボルシアを知っていますか?』にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが付与されることで、このような創造の連鎖がさらに広がっていくことが期待されます。

クリエイティブリユースの活動を紹介する最新著作がCCライセンスを採用

大月ヒロ子、中台澄之、田中浩也、山崎亮、伏見唯 著の『クリエイティブリユース 廃材と循環するモノ・コト・ヒト』millegraph2013)のテキストと写真にCCライセンスが利用されています。

クリエイティブリユースとは、廃材など消費社会において見捨てられている「モノ」を観察し、想像力と創造力によって再び循環させることによって、地域ビジネスなどの「コト」を起こし、そこに関わる「ヒト」同士のコミュニケーションを活発にするものです。本書では、まず、世界各国のクリエイティブリユースの多種多様な活動が写真付きで紹介されています。また、東京都美術館と東京藝術大学が連携するアート・コミュニティ形成事業「とびらプロジェクト」の経過と、このプロジェクトに先行して関連する活動されている中台氏、田中氏、山崎氏のレクチャーが収録されています。さらに、日本初のクリエイティブリユースの拠点「IDEA R LAB」の誕生のプロセスや今後の活動内容が紹介されています。

本書にCCライセンス(表示・非営利・改変禁止)が活用されることで、このようなクリエイティブリユースの考え方が多くの人に共有され、「モノ・コト・ヒト」の循環が生じることになるのではないでしょうか! 今後のさらなる発展に期待です。

漫画『聖☆おにいさん』がCCライセンスを採用

2013年4月、月刊「モーニング・ツー」誌(講談社)に連載中の漫画『聖☆おにいさん』(作:中村光)のアニメ映画公開にあたって、第1話「ブッダの休日」4ページ分の原稿データが、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示-改変禁止2.1(CC BY-ND 2.1 JP)のもと提供されました。

『聖☆おにいさん』は、“世紀末”という大仕事を終えたブッダとイエスが、下界のバカンスを満喫しようと、東京・立川の安アパートをシェアして暮らす日常を描いたコメディ漫画。累計1000万部を超える大ヒット作品ながら、アニメ映画公開にあたって、さらに多くの読者に原作を知ってもらいたいという編集部と原作者の意向で、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの採用に至ったそうです。また、本作が「口コミ」で広まりやすい作品であったため、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの採用によって、ブログに転載されるといったその後の展開も期待しやすいなど、作品との親和性の高さも決め手になったといいます。
採用されたライセンス(CC BY-ND 2.1 JP)の意味は、「原著作者のクレジット表示」「改変の禁止」の条件を満たせば、第1話の冒頭4ページを自由に転載・印刷できるというもの。「改変の禁止」はユーザーによる原作のリミックス可能性を禁じるものであるため、実際にはそれほど多く活用されるものではありません。しかし、『聖☆おにいさん』で、このライセンスが採用されたのには作品固有の理由がありました。つまり、実在のイエスと仏陀という元のキャラクターを改変して、新たにイエスとブッダというキャラクターが設定されているところにこそ、作品の本質がある。そもそも原作自体が、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで「改変可能」ライセンスを採用したかのような設定になっている、というわけです。そのため、あくまで作品の広がりは期待しながらも、「改変禁止」ライセンスの選択によって、その本質は骨抜きにされないように、という配慮がなされたわけです。

創作における模倣性、オリジナリティを考える上でも、あるいは、キャラクターの広がりとクリエイティブ・コモンズ・ライセンスとの親和性の高さを考える上でも興味深い事例と言えるでしょう。今後、ストーリーメインのフィクションにおいても、採用事例が現れるのかどうか。どのような漫画作品、小説作品においてクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが採用されるのか、さらなる展開が楽しみです。

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編集者田渕浩司さんへのインタヴューはこちら

東京藝術大学建築科がCCライセンスを採用

リニューアルした東京藝術大学美術学部建築科のウェブサイトの写真やテキスト等のコンテンツに、CCライセンス(CC BY-NC-ND)が採用されました。

構築的かつシンプルなデザインは、Semitransparent Designによるもの。

OER(オープン・エデュケーショナル・リソース)やオープンガバメント、オープンデータの動きは、日本ではまだまだ広まっていませんが、この試みがその一助となることを期待しています。

Open DATA METIサイトでCCライセンスを採用

政府の持っている情報(データや著作物など、ありとあらゆる情報)を広く公開して国民に活用してもらい、経済活性化につなげていこう、また、同時に行政の透明化を図ろう、という理念から、政府情報をオープン化して、インターネット上で二次利用可能な形で公開する動きが世界中で始まっています。欧米では特に、税金を払って作られた政府のデータは、もともとは国民のものではないか?そうだとすれば、国民に還元して当然ではないか?という意識がとても高いため、ビックデータ時代の到来を背景にしてこのような動きが高まってきたのは、とても自然なことかもしれません。

こうした取り組みは、オープンガバメント、オープンデータなどと呼ばれることが多く、欧米をはじめ世界中に例があります。たとえば、2009年12月に米国のオバマ大統領が就任後の目玉政策のひとつとしてOpen Government Initiative を発表し、2010年3月には英国のキャメロン首相が政府機関宛書簡で推進姿勢を打ち出しました。その他、フランス、オーストラリア、ニュージーランドなど、多くの国でオープン・ガバメントの動きがあり、オープンガバメントを推進する国際的イニシアチブであるオープン・ガバメント・パートナーシップ(Open Government Partnership)の参加国や、オープンデータの提供ウェブサイトのリストなどを見るとその広がりが伺えます。こうした世界的な潮流の中で、CCライセンスの政府や公的機関による利用例についても30ヶ国を超える国での利用が報告されています。

日本でも、2012年7月に「電子行政オープンデータ戦略」がIT戦略本部で打ち出され、現在その具体的な内容について電子行政オープンデータ実務者会議で議論が行われています。この動きと並行して、いくつかの省の中でも具体的な取り組みが検討されています。

と、前置きが長くなってしまいましたが、今回ご紹介するのは、この日本におけるオープン・ガバメントの動きの中で、経済産業省の取り組みです。経済産業省の取り組みは、主に公共データWGで議論されていますが(筆者も委員の一人です)、まずは、モデルケースとしていくつかのデータを公表してみよう、ということになり、下記の経済産業省のオープンデータサイト(Open DATA METI, http://datameti.go.jp/)で統計データと白書データが公開されました。

統計データには、CC表示ライセンスが、白書データにはCC表示-改変禁止ライセンスがつけられています。CCライセンスは、上記でもご紹介したとおり、すでに世界中で広く使われているライセンスですので、今後の世界規模でのビック・データの動きも視野にいれて考えた場合、日本でもCCライセンスを採用してくださったことはとてもよい動きだと思います。

なお、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは著作権に関するライセンスですので、著作物ではないもの(統計データなどの数値がその代表です)についてまで及ぶものではありません。(Open DATA METIサイトの利用規約も、「当サイトの内容(掲載されている情報を含む。)に存在する著作物の著作権は注があるものを除いて、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示 2.1(http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/)のもとでライセンスされています。」と記載されていますので、著作物ではないものには適用されないということだと思います。)

白書については、改変禁止がついている点は今後の課題だと考えています。この点は、公共データWGの第4回会合でも取り上げて議論しましたが、経済産業省としては、不正確な引用などで誤解を招く利用をされた上で経済産業省の名前を使われることに対して警戒していることが、改変禁止を利用条件とした主な理由であるとのことでした。公共データWGでは、私も含め多くの委員から、改変を許容したほうが翻訳や要約など正しい二次利用が促進されるため望ましい、不適切な利用への対策は別の方法で検討すべきだとの意見が出されました。私としては、この点は、基本的には第三者が検証し指摘することで訂正されていくことで対応すべき問題だと考えています。

2013年はオープンガバメントにとって大切な年になると思います。このブログでも出来るだけ発信しますが、皆様に是非興味を持っていただければ嬉しいです。

(文責:野口)